平成18年2月3日(金曜日)
13:00-15:30
赤いかシンポジウム
―謎多き日本海の巨大イカの生態解明に向けて―

いやぁ〜、すげぇ〜!こんなに漁業者が多数集まった研究発表会がかつてあっただろうか?!鳥取県栽培漁業センター、兵庫県但馬水産技術センター、近畿大学農学部、九州大学、水産大学校の各研究員の最新研究発表。それを食い入るように聞いている漁業者たち。水産研究が現場の漁業者に還元された良い例だと思った。今後も漁業者のためになる研究は進めて欲しいし、その情報は分かり易く教えてもらいたい。今回は特に分かり易かったのが良かったと思う。

今日のシンポはこの悪天候でどうなることやらと、とても心配でしたが、無事に終了してホッとしてます。現場で実践して頂いている標識放流調査が、漁況予測シミュレーションを構築する基礎になっており、我々も本当に感謝してます(あの結果がなければシミュレーションの検証する術がないわけです)。今の沿岸漁業は課題が山積ですが、今回のような会が、漁業の活性化に少しでもつながって欲しいなぁというのが、皆の共通の思いです。

赤いかと嫁にやった娘

アカイカ単価向上への取り組み

(鳥取県アカイカ研究会の活動報告)

English Version


スライド映像と併せてご覧ください。

鳥取県で小型底引き網漁とアカイカ樽流し漁を営んでおります廣岩(ひろいわ)です。

「アカイカ単価向上への取組」と題しまして、鳥取県アカイカ研究会の活動についてご紹介させていただきます。 初めにお断りしておきますが、ここでいう「アカイカ」とは「ソデイカ」のことです。 鳥取、兵庫では、「ソデイカ」を「アカイカ」と呼びます。 鳥取県の漁獲量は、ここ4年の平均で年間481トン。沖縄、兵庫に続き第3位の水揚げです。

アカイカ(ソデイカ):Thysanoteuthis rhombus Troschel, 1857



「研究・実践活動課題選定の動機」

研究会発足の経緯を説明いたします。

沿岸漁業の漁獲資源が減少する中、8月〜12月に操業するアカイカ漁だけは近年豊漁続きで、沿岸漁師にとってまさに希望の星でした。かつてはキロ1500円以上の高値でセリ落とされていたこともありました。しかしこの豊漁でアカイカの単価は下がる一方でした。

漁師の実感としてはキロ350円を割ると苦しいものです。平成13年度は10月に入ると既にキロ200円台になっていました。こうなると出漁調整すら、もはや焼け石に水です。一体何処まで下がるのか。11月22日のセリではとうとうキロ100円となりました。まさに暴落です。悔しさのあまり涙が出ました。嫁にやった娘が嫁ぎ先で存外に扱われた気分はこうなのでしょうか。

今日は実物を持ってきました。このイカは7キロです。キロ100円のセリ値では、これが700円です。箱代が300円近くかかります。実質、400円なんて・・・これを搾取と呼ばずして何といいましょうか。腹立たしさを感じました。と同時に、アカイカは消費者から敬遠され、歓迎されない魚なのかという不安に襲われました。

そんな中、有志を募り、イベントでアカイカを出店しました。焼きイカ、てんぷら、大根煮、そして鮮魚販売。これらが予想以上に大好評でした。このことが今後の方向性を決めました。

もともと、高値で県外に出荷されていて県内の消費者になじみがなかったこのアカイカが、地元のスーパー、量販店に並べられるようになったのもここ2〜3年です。そういう意味では新しい食材なのです。この肉厚で柔らかいアカイカが、消費者のニーズに合わないはずはない。イベントでの手ごたえが確信となり、これからは漁師もただ安い安いと嘆くばかりではなく、自ら参画。行動して何とかしようという気運が生まれました。

アカイカの単価暴落に危機感を抱えた私達は、県内の全てのアカイカ漁業者に一体となり活動することを呼びかけました。



『アカイカ研究会』発足

そして、漁業者達の大きな期待のもとに、昨年平成14年1月に鳥取県アカイカ研究会が発足しました。 アカイカという単一魚種の生産者が、単価アップという一つのテーマに全県規模で立ち上がったのです。(漁師達の「プロジェクトX」の始まりです。) 主な活動実績を説明いたします。



研究・実践活動状況及び成果

まず、可能な限り、各種イベントに私達漁師が出向きました。試食販売を通し、アカイカの食べ方、捌き方を消費者に知ってもらう活動から始めました。

漁協女性部会員と共に、新しいアカイカ料理の開発や消費者との交流会も開催しました。料理レシピを作成するなど、アカイカを消費者にとって身近な食材とすることに取り組みました。

また、学校給食での利用は活動当初からの大きな目標です。ズボン合羽をエプロンに替え、学校給食会での試食会や食材プレゼンテーションにも行きました。



これらの活動と平行して、旅館組合や飲食店関係にも積極的にPRしました。プロの料理人が、アカイカを営業に使用することで、鳥取の新しい味として、そのユニークな存在感をより効果的にアピールすることとなりました。

昨年は世界的イベントのサッカーワールドカップがありました。鳥取市をキャンプ地としたエクアドルチームの歓迎レセプションでは、この巨大なアカイカ料理が地元メニューとして採用され、徐々に注目される食材となりました。

また、アカイカ漁の最盛期の秋には鳥取で国民文化祭がありました。県外からの多くの参加者に、鳥取のアカイカを知ってもらうよいチャンスにしたのは言うまでもありません。

こうした活動の中、全漁連の補助事業であるアカイカ加工販売促進協業体が考案したアカイカ冷凍ブロックが登場しました。これにより、衛生面での安全性、通年の安定供給の可能性が確立されました。

そして、昨年12月には鳥取市の保育園で県内初めて試験的にアカイカが給食に導入されました。これが好評で、ついに今年の1月には、鳥取市の全ての公立保育園にアカイカが給食メニューとして登場しました。

保育園児ばかりではありません。老人施設で新たな需要が開拓できました。歯のよくない方にとって、旨みがあって、柔らかく噛み切れるこのイカ刺しは、今後高齢化という時代のニーズに合っていると思われます。

また、全ての給食での定着を目指して、栄養士さんを対象とした料理講習会を開催しました。呼びかけに定員オーバーするほど栄養士さんが集まっていただいたことは、給食現場でのアカイカに対する関心の高さだと思われます。

今年の2月には、県そして教育委員会主催の「地産地消で守ろう子どもたちの食と健康フォーラム」がありました。アカイカを保育園の給食に載せるまでの経緯を担当者であった栄養士さんが発表し、それを司会であった片山鳥取県知事がその話を深める内容でした。2人が会話の中でアカイカ、アカイカと連発していたのを心地よく思ったのは私だけではありません。

このフォーラムで私達は、今まであまり使われなかったみみの部分を団子にして試食提供しました。今後、みみ、あしの部分の利用が高まれば、単価アップにつながると思われます。

また、このフォーラムのステージ、2000人の前で「アカイカ音頭」の初披露までやっちゃいました。(ここまで来ると、まさにやっちゃえ、やっちゃえのノリです。)

そして、つい先日3月1日には、鳥取県生協でアカイカ研究会の活動報告と交流会がありました。生協組合員から、製品開発も含め、アカイカに対し特に高い関心が寄せられました。消費者にとって、アカイカはもはや無視できない存在となりました。

「波及効果」

こうした様々な鳥取県アカイカ研究会の活動は、生産者サイドの漁師からの情報発信として数多くマスコミにも取り上げられ、特に県内、地元で広く認知されることとなりました。 ここで、活動の成果を数字で見てみたいと思います。

平成13年度に比べ、平成14年度の鳥取中央漁協の平均単価はキロ100円余りもアップしました。漁獲量の減少分も考えれば、必ずしもすべてが活動の成果とは言えませんが、特に家庭で捌きやすい小型サイズ2本入り、3本入りの需要が大幅に伸びたことを見れば、やはりこれは私達鳥取県アカイカ研究会の成果であったと思われます。特に10月の単価は平成13年と比べ、2本入りでキロ130円、3本入りでキロ170円以上高くなり、地元の消費の伸びが確実に価格の底ささえとなりました。

また、何よりも私達漁師がこれだけ数多く行動したことで、アカイカの知名度だけでなく漁師の存在感もアピールすることになりました。漁師志望の中学生からメールが届くようになったり、地元の高校が活動に協力してくれて授業で「アカイカ研究会」のHPを作成してくれました。

CD<も出来ちゃいました。その名も「元唄アカイカ音頭」。作詞作曲は地元の高校3年生。踊りも振付けてステージに立ったことは先に述べましたが、その練習が毎晩楽しくて異様に盛り上がったことをみても、この活動が地域の活性化に大きな意義をもたらしたと思います。(テープ流し、アカイカ音頭一番のみ踊る)

最後に今後の課題や計画を話させていただきます。 平成13年11月22日のセリのキロ100円で流した悔し涙。その悔しさをバネにこの1年4ヶ月、アカイカ、アカイカと走ってきました。活動の成果で県民への認知・普及は進み、手ごろな小型サイズの消費が飛躍的に伸びました。価格下落の底ささえを漁師自らの手で成し遂げたのです。

しかし、主に県外に出荷する大型サイズでは、全国的な市場流通相場という大きな壁に阻まれました。かつては高値で取引され、漁師としてもうまみのあったアカイカ漁。真にアカイカの単価向上に挑戦を始めた私達は、全国的な販売戦略を打ち立てなければなりません。かくなる上は、私達鳥取県アカイカ研究会が全てのアカイカ漁獲県に呼びかけて、全国版アカイカ研究会の立ち上げを目指します。その第一歩として来年2004年には全国アカイカサミットを鳥取県で主催開催できるように、夢を持って今後とも意欲的に活動していきたいと考えています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。